サッカーの試合に勝つために必要な要素は、技術、体力、そして戦術です。戦術というのは、例えばスペイン代表の代名詞である「ポゼッション」、最近の世界のトレンドである「ショートカウンター」など皆さんも聞いた事があるかと思います。なおスペイン代表のようなポゼッションサッカーは、膨大な時間と勝敗を投資してきた結果で成り立った戦術であり、他の国やチームが簡単に実行できるものではありません。

自分たち独自の戦術を持つことは重要ですが、サッカーは相手チームと直接戦う競技です。どんな相手でも同じ戦術で戦うという事は非現実的であり、その試合に勝つ可能性はとても低くなります。

自分達が相手チームを研究すると同時に相手チームも自分達のチームを研究します。プロの試合では事前に相手チームのスターティングメンバー、システム、戦術を調べて予想するだけでなく、相手スターティングメンバー各自の利き足、得意なプレー、不得手なプレー、くせ等も事細かに調査します。

例えば、Aというディフェンダーの選手は、足が速く一対一の守備はとても強いが、ボールを奪った後のパスが雑になる時がある。だからA選手がボールを奪った後に素早くボールを取り返すように連続して取りに行く。など色々なシチュエーションを想定してチャンスになる可能性を積み重ねます。

 

戦術というのは、自分たちの武器として特定のパターンを持つことは重要ですが、相手チームによって変える事が必要です。また試合中においても、例えば基本となる戦術をカウンターサッカーとしつつも、その状況によってポゼッションしたり、中央突破を図ったりと柔軟に対応していかなくてはなりません。その際に重要なのが選手個人の状況判断です。

サイド攻撃を基本の戦術としつつも、相手サイドに足が速い選手がいて、しかし中央にはそれほど能力が高くない選手がいる場合は、中央から攻める方が得点の可能性が高まります。

このような判断を刻々と戦況が変わる試合の中で、立ち止まる事無く、走りながら相手チームや自分たちの状況を都度観察し、思考して決断しなくてはなりません。上手くいかない場合は、その理由と別の対策を瞬時に判断、実行します。サッカーの試合はその繰り返しです。

 

特にオランダ人のような大柄な体格やドイツ人のような圧倒的な肉体の強さが無く、ブラジル人のようなボールタッチができない我々日本人が世界と戦うためには、その状況に合わせて瞬間的に相手のウィークポイントを突く戦い方が出来ないと世界では活躍できません。

 

さて前置きがとてつもない長くなってしまいました。六年生の試合ですが、相手チームと比較すると各自が主体的に動いてなく、相手の動きに慌てるシーンが多く、後手後手の対応となり必然的に失点してしまいます。相手チームはあんなに頑張っているのに、うちの選手たちはあまり動いていない、一生懸命やってないように見えるというように感じるかもしれません。

 

これは技術的、体力的な問題というより戦術の問題です。戦術と言ってもこの年代に難しい戦術は無理なので、サイド攻撃を繰り返す、とにかくフォワードの選手に向かってボールを蹴りこむなど一つか二つの約束事を徹底的に行っているチームが数多く見受けられます。そのメリットは自分が実践するプレーが明確なので、体力や技術を使う方法がわかりやすく常に100%の力を発揮する事ができます。試合中のどのようなシチュエーションにおいても、とにかくサイドにボールを蹴る、サイドの選手はドリブルでボールを運ぶ、ゴール近くになったらシュートする。

それに対し私達は、戦術は多彩であり、相手チームや試合中の状況により変化するため、最適な戦術を都度ピックアップするように指導しています。将来的にはこちらの方が有益ですが、現時点では試合中の思考スピードが追いつかないため体を動かす事ができず、動きが鈍く見えたり、運動量が少なく見えたりします。またその瞬間に最適な技術を選択する思考も引きずられて遅くなり、単純な技術的なミスも多くなってしまいます。

この状況の対応策ですが、私達も他のチーム同様にサイド攻撃を実施するとか、とにかくフォワードにボールを蹴り込むなどの約束事を徹底すれば今よりも大幅な改善が図れます。勝ち試合が多くなってもしかしたら予想以上に各自が成長するかもしれません。

 

しかしこの先が心配です。言い過ぎは承知ですが、考える事を放棄した選手は絶対に伸び悩みます。ドロップアウトする典型的な例です。上手くいかない事の原因を考えもせず、そのうちにサッカーに興味を失い競技生活から離れていってしまいます。

 

私達は彼らを信頼しています。確かに私達が求めている事は小学生にはとても高い事はわかっています。しかしこの年代の勝利を犠牲にしてでも彼らのプレーを制限したくはありません。そして彼らならこの状況を乗り越えてくれると思っていますし、今乗り越えられなくても、もがく事が今後の糧になると考えています。今できなくても中学生、高校生になって出来るようになってくれても良いのです。

育成に徹する事がこのクラブの”戦術”です。

投稿者 松尾